代表写真

当社の考え

ブログ

2023.05.11

【料理メニュー改革】6つのポイント:1. 料理「XXづくし」

こんにちは。

ホテル旅館専門コンサルタントの坂本です。


今回は、ちょっと具体的な料理と器の経営改善の話について。

前回のブログで、


「自主再建についての5つのポイント」


をお伝えしました。


その中で、


最も、効果的で、


投資対効果が、最も高い取り組みの一つが、


「料理メニュー改革」


です。


宿泊施設の設備などハード面を改修や修繕するとなると、


少なくとも、数十万円、


大規模改修になれば、


数千万円から数億円かかります。


しかしながら、


料理の試作などは、


いくら高級食材などを取り寄せても、


数万円から20-30万円で、


できる取り組みです。


しかも、


「直接的にお客様へアプローチできる”宿泊プラン”」


への反映が可能となり、


売上・収益に直結しやすい取り組みです。


そのため、


私が、旅館再生でお手伝いする時は、


「料理メニュー改革は一番最初に行う」


取り組みの一つです。


今回から、


6回に分けて、


「料理メニュー改革についての6つのポイント」


を解説します。

6つのポイントは、

1. 料理[XXづくし」

2. 感性「器」と「盛付」

3. ビジュアルコンテンツ「写真」「動画」

4. 料理説明「接客」

5. 売上収益と顧客満足度アップ「ドリンク」

6. 情報発信「SNSの活用」

です。



さて、


そうは言っても、


「具体的に何をすれば良いのですか」


と言う質問をよくいただきます。


4つのステップで考えていきます。


ステップ1. 「自社施設の料理人の腕前」の見極め

これは、あくまで、どの程度の料理歴があるか、

くらいで留めておく方が良いと思います。

料理人さんは、皆さんプライドが高いので、

あまり「美味しくない」などの、

「感性的な不満」

を伝えたところで、変えようがありませんし、

「今は、自施設にいる料理人で新しいメニューを考えるしかない」

からです。


そのため、

自施設の料理人さんが、

「何ができるのか(例:スチコンなどを使いこなせるのか)」


「どんな料理が得意なのか(例:和食会席なのか、フレンチやラーメン屋さんの経験などもあるのか)」


「どんな料理をお客様に提供したいのか(例:カジュアルやフォーマル、肉料理)」


「食材についての知識や仕入れ取引先は、どの程度知っているのか
(例:地域の八百屋さん、魚屋さん、全国展開している業務用食材卸商社、ネットでの業務用仕入業者)」


「原価率の計算はできるのか(廃棄率も含めて)」


など、具体的、できれば


「料理人さんのモチベーションの上がる料理・やり方」


を、

検討・進めるとともに、


「料理人さんに、一度、メニュー構成などを考えさせてみる」


ことで、ある程度、料理人さんの腕前もわかります。




ステップ2. 「地元食材の確認・掘り起こし」


料理人さんの大体の腕前がわかれば、


今度は、


「地元食材の確認・掘り起こし」


です。

注意すべきことは、


「外から見た”その地域のイメージに合った地元食材”」


です。

わかりやすい例で言うと、

「松坂牛」

などが挙げられると思います。



三重県の有名なブランド牛ですが、

首都圏在住の方が

三重県に旅行すれば、

ほぼ必ず、

「松坂牛」

「伊勢海老」

「鮑」

の3つが挙げられることが多いです。



しかしながら、

三重県の方に

「お勧めしたい三重県の特産品はなんですか?」

と聞くと、

「松坂牛」

と答える方もいらっしゃいますが、

「みかん」



「うなぎ」

などの答えが多いです。



これは、

「自分たちの食生活を基準に考えているから」

であったり、

「周辺にみかん農家や、うなぎのお店が多い」

からだと考えられます。



どうでしょうか?

三重県に、そのようなイメージをお持ちの

首都圏在住の方は、多いでしょうか?



「首都圏から見た地元有名食材」


「インバウンドから見た魅力的な地元食材」



を意識するようにしてください。



ステップ3. メニュー「XXづくし」


さて、

次は、地元の魅力的な食材を使って、


メニュー構成を考えていきますが、



通常の「旅館会席」の枠を取り払うために、


私は、


「XXづくし」


のメニューをお勧めしています。


例えば、


海の近くであれば、


「お魚づくし御膳」



「貝づくし会席」


山であれば、


「山菜づくし」


「ジビエづくし


「きのこづくし」

などです。


「何も思い浮かばない」


と言う方には、


「豆腐づくし」



「地元有機野菜づくし」

などを提案しています。



ネーミングについては、

自由な発想で行なっていただきたいですが、


例えば、

長野県で

「信州づくし」

などのネーミングをすると、

人により、イメージするものが異なるため、

「シンプルに伝わらないメニュー名」

になりかねません。

できれば、

「食材名を前面に出したネーミング」

をすることの方が効果的です。


実際に、

長野県の旅館様のご支援をした時に、

ネーミングについて

私は、

春「山の恵み 山菜づくし会席」

夏「豆腐と湯葉づくし会席」

秋「松茸きのこづくし会席」

冬「鹿肉猪肉のジビエ会席」


を提案したのですが、


私と別のコンサルタントが、

信州牛や、信州サーモンを中心とした、


「信州御膳」


と言う提案をしました。


オーナーは


「信州御膳」


を選ばれたのですが、


結果は、散々で、

ほとんど、

「集客できない宿泊プラン」

そして、最も問題になった点は、

「原価率が高すぎる」

ということになってしまいました。


地元食材としては、よかったのですが、

「近隣の旅館などと差別化できているか?
=わざわざこの旅館に来て食べる価値があるか」

「コスト的に、続けていける内容(原価率)なのか」

「料理人さんの創意工夫を活かせるか」

などの視点で考えていただければ、

自ずとわかっていたはずですが、

とても残念で、

この旅館は、数年後に廃業されました。




ステップ4. 価格設定


そして、上述した通り、


「原価率」や「廃棄率」を考えた時に、


最も重要になることが、


「価格設定」です。


これは、


「最も大事な、経営者が、最も考え抜いて決めることの一つ」


です。


「料理メニュー単品での価格設定」




「既存宿泊プランの焼き直しの価格設定」


をしがちですが、


「新しい取り組み、であり、

通年で計算して、しっかり利益が出る価格設定」



を行う必要があり、


そして、最も大切な考え方は、


「このメニューを、

最も喜んで食べてくださり、

最も高いお金を払ってくださるお客様は、

いくらくらい払ってくださるのか」

です。


私のご支援した施設に、

「魚屋さんが経営する旅館」

があります。


保証協会からの紹介で


ほぼ「再生案件」と言うことで伺い、


「最小の投資で、最大の利益を」


と言うミッションのもと、


料理長と色々考えて、

地元でしか出回らない地場産のお魚を使った、


「13種の地場産魚のお刺身と季節のお魚づくし御膳」


と言うメニューを開発しました。


とても魅力的で、


私自身が


「これは食べたい!」


と、家族で宿泊して、実際に食べた料理メニューでした。


そして、社長には、


「このメニューは、本当に価値がある、

他の旅館施設でも提供していない、

ここでしか食べられないメニューなので、

価格設定は、この旅館の既存の宿泊プランで、

最も高いプランと同じ価格にしてください」


とお願いしました。

しかしながら、

魚屋と言うことで、原価率もわかっているため、

また、地場産魚の魅力が理解できていなかったため、


「最も安い価格設定」


で宿泊プラン価格を設定して、販売を開始しました。


それでも、料理単体では、

食材原価率は20%代と、

儲かるプランでした。


結果は、


「旅館始まっての、ヒット宿泊プラン」


となりました。


私自身も、宿泊して、食したときに、


「すごいメニューができた」


と喜びましたが、反面、


「この価格では、人件費や通年で考えたり、


食材価格の変動を考えたら、ほとんど儲かってないだろうな」


と推測していました。



残念ながら、結果はその通りで、

「宿泊プラン単体としては、もちろん儲かっています」

でもなく、色々サービスしすぎたため、

また柔軟な仕入れができないために、

「宿泊プラン単体でも食材原価率が50%を超えること」

もあり、

「通年で考えて、このプランで”利益を稼ぐ”」

どころか、

「売れば売るほど、赤字になる」宿泊プラン

となってしまいました。


この旅館も数年後には、

廃業することになってしまいました。


価格設定について最も大切な考え方は、

「このメニューを、

最も喜んで食べてくださり、

最も高いお金を払ってくださるお客様は、

いくらくらい払ってくださるのか」


です。


安売りすることは、


「自分たちで、自分たちの価値を下げている」


ことであることを理解する必要があります。


「ある程度の高価格を設定することで、

お客様に、この料理メニューの、さらなる価値を理解していただく」


ことが可能になります。


日本は、この「失われた30年間」で


「安売りこそ正義」


と言う意識が強くなりすぎています。


「自分たちの価値ある商品・サービスを、

適正価格で販売する」


ことを忘れてしまっているようです。


インバウンドは、


「せっかくの日本旅行で、安物買いの銭失い」


はしたくない、


「せっかく来たのだから、ここでしかできない体験・料理を味わいたい」


と思うのは当然です。


この要望に対して、


「しっかりとした価値ある料理メニューを提供する」


ことが求められています。


このことを、


「シンプルに」


ターゲットに対して、


「最も突き刺さる料理メニュー名」


が、


「XXづくし」


です。



これがあまり機能的な表現になってしまうと、

「料理は感性」なので、「感性」が損なわれます。

ところが、日本中の料理人の方は、

あまりこれが理解できておらず、

いまだに、いわゆる「旅館会席」を出そうとしています。



これを説明するには、今までの旅館料理の歴史について、

少し理解する必要があります。



もともと旅館のルーツの一つに、

江戸時代の参勤交代の「本陣」「陣屋」があります。

これは、遠く地方から江戸に向けて参勤交代するお殿様をもてなすための宿です。

その土地その土地の名物が出されます。

(現代の料理人は、この時代の感覚に戻れれば、一番良いのですが・・・)



気に入れば、お殿様から多くの報酬がいただけて、

気に入らなければ、来年からは宿泊してもらえない、と言うことです。



これが、明治・大正・昭和と時代が流れ、

戦後、1960年代からの「団体旅行」ブームになった時に、

いわゆる「旅館会席」が出されるようになりました。



その流れは1970年代1980年代も続き、

・団体旅行=旅館会席

・地元宴会=旅館会席

と言う方程式の中、バブル崩壊して、婚礼・宴会が減少していきます。



代わりに出てきたのが、「個人旅行」です。

これは、大都市圏から地方都市への観光旅行です。

そのため、料理にも「その土地らしさ」を求めるものになりました。

これが1990年代以降なのですが、

料理人さんが、この流れを理解できていない方が、

とても多いです。


すでに30年近く経っていますが、

いまだに「更新」されていない方が、本当に多いです。


逆に言えば、

ここを更新すれば、「その土地らしい食事」に

切り替えることができれば、

あっという間に人気の宿になれるのに、

なかなか一歩が踏み出せない状況です。


そこで、再度言いますが、

「XXづくし」

がシンプルで、

「最も顧客に響きやすいアプローチである」ことを、

お伝えしています。

もし、何も浮かばなければ、

海=お魚づくし・えびづくし・鯖づくし、貝づくし、など

山=きのこづくし・山菜づくし・ジビエづくし、など

田舎=豆腐づくし・有機野菜づくし・発酵づくし

などが、参考になるかもしれません。



例えば、私が和歌山で提案した例で言うと、

朝食バイキングで「20種類の梅干しバイキング」

なども提案しました。

結局10種類で始めたのですが、

それでも顧客の反応はよかったです。

塩分濃度・メーカー・ハチミツ・ダシ、などで種類分けして、

ちゃんと好みの梅干しを見つけることができて、

その梅干しがお土産コーナーにも置いてある。



当たり前ですが、これくらいの仕組みを作る必要があります。


これは、例えば、明太子や漬物でも同じことが可能です。

最終的には、「お客様が喜んでお金を払いたくなる」落とし所、

を作っておく必要があります。



「料理で選ばれる宿」

に、

多くの宿がなれるチャンスです。


インバウンドが本格的に戻ってくるまでがチャンスです。

皆様の宿が、さらにさらに魅力的になるお手伝いを、

一緒にさせていただければ、と思います。

次回は、

「器」

について説明します。